ウチの近所に、うどんが飛びぬけてうまい定食屋があるんですけど、
初めてその店にぼくが入ったとき「いらっ……」ぐらいで声がピタッと止まって、おかみさん、ぼくのほうをずっと凝視していて。
でもぼくは見覚えなかったし、「へんなおかみさんやな…」ぐらいにしか思わなかったんですけど。
出てきた肉うどんがもう、むちゃくちゃうまくて…。
しかも「この味、昔、食べたことあるな」という気持ちにすらさせる、絶妙な味やったんです。
初めて入った店のはずやのに不思議やな、と思いながら、ふと、調理場に立ってるおかみさんのほうを向いたら…おかみさん、奥でひとりで泣いてて。
「あれ…あの人、マジでホンマのオレのおかあさんちゃうかな?」とかぼくは思ってしまって。
これは真相を究明してみてもエエんですけど、でもオレは、オレを育ててくれた今のおかあさんをホンマのおかんやと思うようにしてきましたし、いまでもホンマにそう信じてるし。
だからあまり詮索しないようにしています。例えそのお店のおかみさんが、ホンマはぼくの産みのおかんやったとしても…
むしろ、何も言わず、ただ黙々と、その店のうどんを食べに通うことが、ホンマの親孝行なんかもな、とか思いながら。だから昼はたいてい、そこでうどんを食べてます。
この前なんておかみさんに「あんたひとり暮らし?」とか聞かれて。「そうです」言うたら、「なんか困ったことあったら言いや。私のこと、ぜんぜん頼って良いから」みたいなこと言われてしまって…あの時はもう、ホンマに、涙こらえるのが必死で。バレないように、七味をいっぱい降るフリとかして、うどんが真っ赤になってしまって大変でした。